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COLUMN - 港区民オペレッタ『こうもり』後日譚 -

平成23年2月5日(土)メルパルクホールにて、港区文化芸術フェスティバル 港区民オペレッタ『こうもり』が上演されました。 オルロフスキー公爵のパーティに招かれる市民の役とパーティを盛り上げる芸術家の役に区民の皆さんが参加し、プロと一緒に舞台を作り上げました。
「港区アートサポートスタッフ」の皆さんも、舞台制作から出演者のサポートまで大活躍でした。

港区民オペレッタ「こうもり」画像

電話が鳴った。

ソファーで半分眠りかけていたドクター・ファルケは、現実と虚構の間で朦朧としながらテーブルの上の携帯電話を手に取った。知らない番号だった。
「はい」
「あのう、ドクター・ファルケでしょうか」
聞き憶えのある声だった。
「そうですが、どちらさまですか」
「ドクター・ファルケ。先日はお世話になりました。私、ドクターにオルロフスキー公爵のパーティに連れて行っていただいた港区の……」
先月のこと、ドクター・ファルケは知り合いの若い公爵のわがままを満たすために多くの友人を巻き込み『こうもり』と銘打って一芝居打ったのだが、 その際たくさんの港区の一般区民に参加してもらっていた。彼らはプロ顔負けの働きで、期待以上に演じた。電話の相手はその時に参加した女性の一人だった。
「ああ、あの時の。その節はお世話になりました」
「こちらこそ。最初はどうなることかと思ったけれど、おかげでとっても楽しい時間を過ごすことが出来ましたわ」
「そう云っていただければなにより。オルロフスキー侯爵もね、非常に面白かったと褒めて下さいましたよ。 公爵がおっしゃるには、あんなに楽しい催しになるなら、いっそのこと映像にでも残せばよかったのにと」
「あら、ご存じありませんの?あの日の出来事はみんな、ちゃんとプロの方が映像に収めて下さっていて、こんど拝見することになっておりますのよ。 皆で話しておりますわ、参加した誰もの記憶に残る『こうもりの復讐劇』だったって」
女性の声は満足そうに響く。
「そうですか、それは良かった。皆さんもそれぞれの方が、非常に工夫を凝らして参加なさいましたしね。 ご自分で小道具などもいろいろお考えになっていたようだし。いやはや、私が想像した以上に演じて下さいましたよ。 私自身、皆さんとご一緒している間、ずっと楽しませてもらいました」
「そうなのよね。云われたことを演じるだけでは面白くないけど、いろいろと私たち自身で相談してやってみましたの。 ああいうところってやはり普段は縁の無い世界でしょ。そんな晴れ舞台で自分の考えたこと、やってみたことが活きているって感じたのは新鮮だったわ」
「是非またあんな機会があったら、声をおかけしますよ」
「約束よ。お願いね」
電話は切れた。
参加した方々が楽しんで下さったのはなにより嬉しかった。なにかを演じるということはとてもエネルギーがいることだ。 そして、演じる側が演じる喜びに満ちていなければなにも相手に伝わらない。そういう意味で、今回の企みは大成功と云えた。 またそのうち、自分の出番が来るだろう。それを求めてくるのは、わがままな若い公爵かもしれないし、それとも………。
ドクター・ファルケはまた眠りに引き込まれていった。現実と虚構の間で朦朧としはじめたその時。

電話が鳴った。

港区民オペレッタ「こうもり」画像

指揮者/演出家 角 岳史

(文)
指揮者/演出家 角 岳史 (すみ たけし)

プロフィール
東京学芸大学芸術課程音楽科卒業。指揮と作曲を学ぶ。1995年よりウィーンに留学し研鑽を積む。
1996年より(財)日本オペレッタ協会の全ての公演に参加し、指揮者または合唱指揮者として『こうもり』『メリー・ウィドウ』をはじめとする 数多くのオペレッタに携わる。オペラでも、『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『魔笛』『椿姫』『リゴレット』『ボエーム』 『カルメン』『ヘンゼルとグレーテル』、劇団四季の『オペラ座の怪人』などを指揮。近年では、コンサートやオペレッタの舞台のプロデュース、 演出なども手がけている。現在、東京オペレッタ劇場音楽監督。
指揮を井崎正浩、湯浅勇二、松尾葉子、ヴァラディ・カタリン、ルドルフ・ビーブルの各氏に師事。